県道道メモ(2004年11月14日)

停車場とは何か

本サイトでもたびたび言及していますが、都道府県道の中には、鉄道の駅と最寄りの県道・国道を結ぶ停車場線というものがあります。例えば、JR常磐線の土浦駅から、最寄りの国道125号までを結ぶ道路が、県道275号(土浦停車場線)に指定されているといった具合です。(ちなみに、路線名に「停車場」という単語が含まれる都道府県道を本サイトでは便宜的に「停車場線」と呼んでいますが、公的な道路資料に「停車場線」という用語が存在しているわけではありません。)

「停車場」という言葉でまず思い浮かべるのは、石川啄木の短歌「ふるさとの訛なつかし停車場の…」に代表されるように、明治・大正時代の文学作品に多く使われているような印象があります。しかし近頃は実生活の上で「停車場」という名前が使われることはあまりないように思います。県道の世界でこのような言葉が残されているというのは、ある意味ロマンチックだなあと今まで思っていました。

ところで先日、図書館に行ったときに、「停車場変遷大事典(国鉄・JR編)」(全2巻、JTB、1998)という本を見つけました。日本の国鉄からJRに至る鉄道において、全国すべての停車場の開業・名称変更・廃止などの歴史が完全に網羅されている大変な力作で、この本で日本の停車場の歴史がすべてわかると言ってもよいと思います。(2004年11月14日現在、牛久市立図書館のレファレンスルームにあります。)

この事典の冒頭の部分で、「停車場とは何か」についての記述があり、また「駅」と「停車場」との違いについて明確に述べられてあったので、興味深く読みました。以下に該当部分を引用します(「停車場変遷大事典(国鉄・JR編)」第1巻、32ページより)。

「停車場」とは何か

一般に「停車場」(テイシャジョウ又はテイシャバ)は、列車の発着や旅客の乗降、貨物の積卸しなどのために設けられた場所として、「駅」の同義語と見做されていることが多い。それはそれで別に間違いというわけではないが、鉄道用語として、法規上からみた「停車場」(テイシャジョウと訓(よ)み、テイシャバとは訓まない)ということになると、施設としての駅だけを指すものではなく、信号場や操車場といった駅以外をも含んだ総称とされている。つまり、法規上の「停車場」は、あくまでも「駅」とは異なった概念を持つものであり、駅は「停車場」の一種類という関係に置かれているのである。ここでは、新旧の法令が規定している内容から、停車場はどのように定義されているのか、停車場にはどういう種類のものがあるのかを、まず明確にしておくこととしたい。

そしてこれ以降に、法令に基づく停車場の定義、また停車場の種類(駅・信号場・操車場など)の各用語についての詳細な説明が続けて述べられています。

また同書では、「駅」と「停車場」という見出し語について、広辞苑はかなり適切な語釈を与えている稀有な例である、ということについて触れてありました。そこでついでに「広辞苑」(第五版、新村出 編、岩波書店、1998)をひも解いてみました。(ウェブ上で表記するため一部文字を代用および省略しています。)

えき【駅】 (1) 律令制で、公用の旅行や通信のために駅馬・駅船・人夫を常備している所。うまや。 →駅制。 (2) 列車・電車を停止し旅客・貨物などの取扱いのために常用される場所。「で待ち合せる」 →停車場

てい‐しゃ【停車】 車をとめること。特に、列車・自動車を(駅などに)とめること。「臨時‐じょう【停車場】 列車などの発着、旅客の乗降、貨物の積みおろしなどのために設けた場所。駅・操車場・信号場などの総称。 ‐ば【停車場】 ⇨ていしゃじょう

つまり、「停車場変遷大事典」および「広辞苑」で明確に述べられているとおり、少なくとも鉄道用語としては、停車場とは駅・操車場・信号場などを含んだ用語であり、駅は停車場の1つの種類であるということになります。

ということは、都道府県道において「停車場線」という名を持つ路線は、旅客駅だけでなく例えば貨物駅や、信号場・操車場につながる道路を指定してもいい、ということになるのかなあ? 実際にそういう都道府県道が日本に存在するかどうかは、不勉強のためわかりません。今後機会があれば調べてみたいです。

また、上記「停車場変遷大事典」で、鉄道用語としては停車場は「ていしゃじょう」と読み「ていしゃば」とは読まない、と書かれていて、また同書の奥付にも書名に「ていしゃじょうへんせんだいじてん」と仮名が振ってあったので、都道府県道の路線名としても「○○停車場線」は「○○ていしゃじょうせん」と読むのがやはり妥当ではないだろうかと思いますが、こちらも道路関連資料でまだ根拠を見つけていないので、今後の調査が必要。

やはり、趣味や研究対象としての鉄道の世界は、歴史が長いこともあり充実していますね。道路の世界も将来、様々な人が研究の成果を発表する場が増えるといいです。「停車場変遷大事典」に対抗して、都道府県道の停車場線の歴史を網羅した「停車場変遷大事典」という本がいつか刊行される日が来るといいなあ、と思ってみたりして。